ゴールを見据えることの大切さ |
すばらしい快挙に胸が熱くなりました。
これまでも山中教授の業績についてはたびたび報道されていましたので、かなり知っていましたが、本当によかったと思いました。
山中教授のすばらしさのひとつは、ゴールを見据えて研究し続ける、ことにあると思います。
研究のための研究に終始せず、「苦しんでいる患者さんを治したい」という最終的な目的を、常に意識して研究に取り組んでいることだと思います。
一介のサラリーマンでも、基本は同じだと思いますが、普通は、つい目の前の仕事に追われ、「なんのためにその仕事をしているのか」を見失ってしまいがちです。
そして、だんだんと惰性に流されていく、生活のために月給さえもらえればいい、という人も多いことでしょう。
山中教授は臨床医をあきらめても、医者ではあり続けた。そして、医者として実現したいことを念頭に置き、「ゴール」をちゃんと見据えていた。記者会見で、まだその道の途中にある、ということを強調されていたことに、あらためて感動しました。
少し違う話のようですが、私の著書『中国人エリートは日本人をこう見る』の中で、ある中国人が日本人の仕事のやり方について、このように語っていたことを思い出しました。
「私は日本にきて、上司から『顧客意識』を持つことが大事だと教わりました。パソコンに向かっていて、一見、顧客とは関係ないエンジニアでも、最終的には顧客や世の中のために働いている。そのことを日本にきて初めて学んだのです。この喜びは大きく、やりがいにつながりました」
まったくその通りなんですね。それが、仕事をしていく上で大事なことなんだと思います。
都内にある中国系企業を取材したとき、そこで働く日本人がこんなことを言っていました。
「中国企業はめざましく台頭していてすごいと思うが、彼らが話すことといえば、目先の事業拡大やお金の話ばかりで、理念や理想というものが感じられないんですよね」
もちろん、そんな企業ばかりではないと思いますが、あまりにも急激に成長し、競争が激化するなかで、直接、めしのタネにならない理想を持ち続けるのは、困難なことだと思います。
山中教授には、そうした思いを持ち続けるのに必要な、温かいご家族や友人、支えあう仲間がいたのだと思います。
中国では、よくこんな話を聞きます。 「なんで、アジアでは日本人ばかりがノーベル賞をとるの? うらやましい」
アメリカ・シリコンバレーで働く外国人で最も多いのは中国人とインド人であり、頭脳の優秀さでいえば、中国人も日本人に負けていません。
数十年後には、アメリカの大学で研究する中国人がノーベル賞を連発、という日がくるかもしれません。
でも、そこには必ず、山中教授のような、ゴールを見据えた熱い思いと、それを支える環境、そしてチームワークがなければならないと思います。