獅子頭 |
私はこの方の文章、かなり好きです。
本のタイトルになっている『獅子頭』とは、中国料理のひとつ。一言でいえば、大きな肉団子のことです。説明によると、淮揚料理(淮河と揚子江流域一体の料理)に分類されるとのことで、毛沢東が建国の祝いの席で食べたのが淮揚料理とのこと。上海に近い地域ですので、日本人には馴染み深い甘めの濃い味つけです。
さて、この小説にはタイトル通り「獅子頭」があちこちに登場します。主人公は1967年(私と同じ!)に大連から離れた寒村に生まれ、幼い頃に雑技学校に入学します。そこの調理場で働いていた父親が毎日食堂のご飯の中に「獅子頭」を隠して入れてくれて、それを食べて成長します。
でもなかなか芽が出ず、結局、調理師の道へ。調理師として腕を上げ、レストランで「獅子宴」という獅子頭を中心としたコース料理を出したところ評判となり、たまたま食べにきた日本人に注目され、「日中友好の使者」として、図らずも日本のレストランに政府から派遣されることになってしまい、そこで日本の女性と不倫の恋に落ち・・・・・というストーリー。優柔不断で日本行きなどまったく望んでいなかった主人公の成長と、当時の中国の情勢、そして中国人と関わる日本人の姿を描いています。
27歳で日本に行く設定となっているので、来日時は1994年のはずですが、来日前には中国共産党からマルクスの講義を受け、資本主義の悪習を移されないようにと注意を受けてくるあたりにびっくりします。1994年なんてつい最近のように思いますが、そんな時代だったのですね。
そういえば、以前「小さな村の小さなダンサー」という映画を見たときも、同じようなシーンがありました。毛沢東の政策でバレエの素質がある少年が村から抜擢され、英才教育を叩き込まれ、アメリカに研修に行く話なのですが、そこでも「資本主義に毒されるな」と厳しく注意されます。でも、アメリカでさまざまなカルチャーショックを受け、ついに亡命してしまうのです。
当時、どれだけ中国から海外に行くことのハードルが高かったか、また中国がどんなことを考えていたかがよくわかります。
さて、「獅子頭」のお話。獅子頭には「砂鍋獅子頭」(土鍋入り肉団子スープ)や、「紅焼獅子頭」(甘いたれがかかった中国風煮込みハンバーグみたいな感じ)、さらに「蟹粉紅焼獅子頭」(蟹肉入りの甘い肉団子)などいくつかの種類があります。
私がいちばん好きなのはシンプルな「紅焼獅子頭」。白いご飯によく合います。楊逸さんは『おいしい中国』などの本も出されているので、きっと食べることが大好きな方なんだろうなと想像しています。